64歳時に、急性胆嚢炎で入院した際に、随時血糖351mg/dl, HbA1c 12.5% (JDS)で糖尿病と診断され、周術期はインスリンを使用して胆嚢摘出術施行。この時点で、増殖前網膜症、神経症(振動覚低下)あり。術後より当科にて血糖コントロール。グリクラジド40mgのみで約14年間HbA1c 5.5~7.0%を維持していたが、78歳時より徐々にHbA1cが上昇(7.5~8.0%)、高血圧、脂質異常症、糖尿病腎症も合併していた。度々低血糖症状が出現していたため、これまでも歴代の主治医から度々薬物療法の見直し(変更・追加)を提案されていた。しかし、治療薬の変更・追加を拒否し続けHbA1c 11.0%まで上昇。食事療法の見直し、教育入院、インスリン導入、経口薬の追加・変更などの治療上の提案を全く受け入れることが出来ず、対応に難渋した症例である。
〈一般身体所見〉
心窩部痛あり、体温38.2℃、身長150cm、体重44.5kg、Body mass index (BMI) 19.8kg/m2。
〈血液検査〉
WBC 25400/μl, CRP 39.9mg/dl, AST 21 IU/l, ALT 28 IU/l, ALP 640 IU/l, γ-GTP142 IU/l, 随時血糖351mg/dl, HbA1c 12.5% (JDS), 抗GAD抗体 <0.3U/ml.
〈尿検査〉
尿糖(3+), 尿蛋白(-), 尿ケトン(2+), 尿中Cペプチド(CPR) 37μg/day, 尿中アルブミン12.5mg/day.
〈画像検査〉
腹部X線写真:上行結腸内ガス増加、腸管拡張。
腹部超音波:胆嚢拡張(15×11cm)、胆石あり。
【診断と鑑別診断】
急性胆嚢炎、胆石症:初診時検査所見より診断され、外科にて腹腔鏡下胆嚢摘出術施行。周術期の合併症なく終了。
2型糖尿病:64歳以前に糖尿病の診断は全くされておらず、重症感染症(急性胆嚢炎)による入院を契機に診断された例である。内因性インスリン分泌能と抗GAD抗体陰性より2型糖尿病と診断した。周術期は速効型インスリン(スライディングスケール)を使用し、術後は空腹時、食後血糖とも100mg/dl台となり、退院時には経口血糖降下薬(グリクラジド40mg)のみとなった。
合併症の診断:初診時の増殖前網膜症は増殖性網膜症に進行し、神経症も症状が悪化。腎症は徐々に進行し血清クレアチニンは1.2~1.4mg/dl、尿蛋白は(±)~(+)。心血管系合併症はなく、頭部MRIでは、大脳白質の加齢性変化、慢性虚血性変化(年齢相応)のみ。
最近の血糖コントロール悪化の要因:比較的良好であった血糖コントロールが急激に悪化した場合は、常に悪性新生物を念頭に置き鑑別する必要があるが、本例では、患者の同意が得られず、消化器系を含めた悪性疾患の検索はされていない。糖尿病の自然経過、あるいはスルフォニルウレア(SU)薬の長期使用によるインスリン分泌低下に加え、不規則な食生活が影響していると思われる。
急性胆嚢炎、胆石症:初診時検査所見より診断され、外科にて腹腔鏡下胆嚢摘出術施行。周術期の合併症なく終了。
2型糖尿病:64歳以前に糖尿病の診断は全くされておらず、重症感染症(急性胆嚢炎)による入院を契機に診断された例である。内因性インスリン分泌能と抗GAD抗体陰性より2型糖尿病と診断した。周術期は速効型インスリン(スライディングスケール)を使用し、術後は空腹時、食後血糖とも100 mg/dl台となり、退院時には経口血糖降下薬(グリクラジド40 mg)のみとなった。
合併症の診断:初診時の増殖前網膜症は増殖性網膜症に進行し、神経症も症状が悪化。腎症は徐々に進行し血清クレアチニンは1.2~1.4 mg/dl、尿蛋白は(±)~(+)。心血管系合併症はなく、頭部MRIでは、大脳白質の加齢性変化、慢性虚血性変化(年齢相応)のみ。
最近の血糖コントロール悪化の要因:比較的良好であった血糖コントロールが急激に悪化した場合は、常に悪性新生物を念頭に置き鑑別する必要があるが、本例では、患者の同意が得られず、消化器系を含めた悪性疾患の検索はされていない。糖尿病の自然経過、あるいはスルホニルウレア(SU)薬の長期使用によるインスリン分泌低下に加え、不規則な食生活が影響していると思われる。
胆嚢炎治療後の退院時にSU薬が選択されたことは、当時の経口血糖降下薬の選択肢から考えると必ずしも不適当とは言えない。実際、グリクラジド40 mgのみで約14年間HbA1cのコントロールは比較的良好であったが、度々低血糖症状が出現していたため、より低血糖頻度が少ない薬剤への切り替えを考慮した。しかし、患者本人のグリクラジドへの希望が強く、変更することなく経過した。
最近のHbA1cの悪化に対しては、原因検索に加え、食事療法の見直し、経口血糖降下薬の変更・追加を提案し、一時的には試してみたが、いずれも患者本人の満足度を得られず継続されていない。一度糖尿病専門施設へ転院したが、転院先でも治療に対する同意が得られず難渋し、再度転院を余儀なくされた。
本例は、もともと頑固な性格であったが、高齢になるに従い、性格の変化が現れ、糖尿病治療に対する理解の欠如、医療者への不信感、攻撃的な態度が目立つようになり、それらがHbA1cの悪化後に更に顕著となった。
食事療法については、独居で外食が多く不規則な食事が多かったが、「きちんとやっていて自分の食事のことは自分が一番分かっている」、薬物療法については、SU薬(グリクラジド)が「最も自分に合っている」、
歴代主治医が試したDPP-4阻害薬(アログリプチン、リナグリプチン)は「体に合わない、これは薬害だ」などの発言があり、グリクラジド以外の治療を全く受け付けない状態であった。しかし、精神科への受診も受け入れないため、正確な精神科疾患の診断はなされていない。
【治療に同意を得られない例への対応と老年期精神病】
外来診療において、医療者側が提案する治療内容に対して、短時間の説明では同意を得られないことはしばしば経験する。一般的には、繰り返し説明することにより、患者自身が治療の必要性を理解すれば、最終的には受け入れられる場合が多い。しかし、本例のように、医療者側の全ての提案に対して拒否反応を示す高齢者への対応は困難である。しかし、通院の意志がある例は、医療そのものを完全に拒絶しているわけではないことが多く、その見極めが大切であろう。治療内容に関しては、重大な合併症が起こらない限り、患者本人の希望を優先させ通院を継続させておくことが得策と思われる。
老年期精神病には、主に老年期発症の統合失調症、従来遅発パラフレニーと呼ばれていた妄想性障害が含まれる。これらの病前性格として、非社交的、猜疑的、敏感なことなどが挙げられており、本例の性格もかなり類似する。経過中に、精神科で正しい診断・治療がなされていれば、糖尿病治療も改善した可能性はある。
老年医学テキスト 改訂第3版(社団法人日本老年医学会編、東京)