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高齢者の循環器疾患

89歳女性、心不全、たこつぼ心筋症 (JCHO東京新宿メディカルセンター内科 谷地繊)

概要

89歳独身独居の女性、要介護3。10年ほど前から高血圧、糖尿病、軽度認知症があり、最近は自宅近くのクリニックから往診にきてもらっていた。1年前に大学病院に心不全で入院した既往があり、その際の心臓CTで多枝病変が疑われているが、本人はカテーテル検査を拒否し内服加療となっていた。2月某日、ヘルパーが自宅を訪問したところ玄関で倒れている患者を発見、当院に救急搬送となった。

初診時現症

小柄やせ型、意識レベル低下(Japan coma scale Ⅱ-10:呼びかけに開眼する)、体温35.9℃、血圧140/80mmHg, 心拍数102/分・整、SpO2(酸素飽和度) 90%、胸部心雑音なし、肺ラ音 両肺にあり。下腿浮腫あり。

主な検査所見など

〈血液検査〉
炎症反応上昇なし。軽度腎機能低下あり。クレアチニンキナーゼ350と軽度上昇、トロポニンI軽度上昇、HbA1c7.8%で糖尿病あり。BNP 680

〈画像検査〉
心電図: 正常洞調律、心拍数110、前胸部誘導に陰性T波あり
胸部X線: 心拡大あり、両肺うっ血軽度、胸水貯留なし
心臓超音波検査: 駆出率40%と低下、心尖部無収縮、大きな弁膜症なし

〈認知機能検査〉心不全改善後に施行
    HDS-R 9(長谷川式簡易知能評価スケール 満点30)

診断と鑑別診断

安静時の呼吸苦、肺ラ音と下腿浮腫を認め、酸素化低下およびBNP上昇があり、うっ血性心不全と診断した。心臓超音波検査では、心尖部無収縮を認め、心電図所見と併せて、たこつぼ心筋症または急性前壁梗塞の疑いとなった。


治療方針

急性心筋梗塞も否定できなかったが、発症時期が不明なこと、また本人が前医でカテーテル検査を拒否していた経緯から、緊急カテーテルは施行せず、まず心不全の加療を行う方針となった。安静、酸素、減塩食、利尿剤で治療を開始した。速やかに呼吸困難は改善して10日後には酸素投与も終了となった。心電図は徐々に陰性T波が深くなり、10日後の心臓超音波では、心尖部無収縮部位の改善を認めた。経過からたこつぼ心筋症の診断となった。
心不全加療の間は不穏になり、点滴をひっぱる、酸素マスクを外す、等などの行動が見られ、最低限の抑制が必要であった。また、長期臥床により下肢筋力の低下を認め、リハビリテーションの介入を行った。

治療経過の総括と解説

【たこつぼ心筋症と心不全、認知症の高齢者の治療経過の総括と解説】   
 たこつぼ心筋症は、左室心尖部の無収縮を特徴とする心筋症である。急性心筋梗塞とよく似た経過をとるが、冠動脈は正常である。可逆的経過をとり、心収縮は時間経過とともに改善する。精神的、肉体的ストレスが誘因となることが多いが、機序の詳細は不明である。突然の胸痛で発症することが多いが、本症例では胸痛の有無および誘因となるストレスの有無は不明であった。心不全を併発することが多く本症例でも軽度心不全を認めたが、加療により速やかに改善した。
これまでカテーテル治療など侵襲的な処置は一切拒否をし、なかなか入院にも応じなかった経緯もあり、今回もリハビリへの拒否があった。また心不全改善後も食事摂取拒否があり、経口摂取がほとんど進まなかった。来院時、本人から延命処置は希望しない、胃瘻は希望しない旨を聞いていたため、末梢点滴のみで転院先を探す方針となった。

参考文献

BNP: 「心不全」診断の大事な診断ツールです。(谷地コメント)
心不全のすべて語れるわけではありません。
たこつぼ心筋症: 「Tacotsubo cardiomyopathy」という正式な医学的病名です。
可逆的で予後はいいが、まれにショックになり女性に多い。高齢者に特有ではない。