数年前から日中は2回程度しかトイレに行かないが、夜間に3-4回トイレで目が覚めるようになり、睡眠不足になった。夜間の1回排尿量は少なくない。また、夕方になると膝から下が重くむくむようになった。高血圧症で血圧降下薬を服用しているが、それ以外今までに大きな病気をしたことはなく、入院は出産の時だけだった。循環器内科医には年齢なせいだから心配ないと言われたが、家族に勧められて当院泌尿器科を受診した。
<一般身体所見>
中背やや肥満気味。バイタルサインは正常で、胸腹部に理学的異常所見なし。
神経学的異常所見なし。
尿中潜血(-)、タンパク(-)、糖(-)、ウロビリノーゲン(-)、pH 6.0。尿沈渣では赤血球・白血球は1-4/HPF(強拡大)、上皮(-)、結晶(-)。
<血液検査>
血算、生化学検査値は正常。
<膀胱超音波検査>
膀胱に明らかな異常なく、300mL溜めることができた。
<尿流測定>
最大尿流率は17.8ml/秒、残尿10cc。
排尿日誌をつけてもらうと日中の排尿回数は2-3回で1回排尿量は250-300mLだったが、夜間の排尿回数は3-4回で1回排尿量は200-350mLだった。
夜間頻尿の原因としては、過活動膀胱に伴う機能的膀胱容量の低下や就寝中の尿量増加が考えられる。この症例では脳血管障害やパーキンソン病などの神経学的合併症もなく、1回排尿量が少なくないことから、過活動膀胱は否定的である。
夕方からの水分摂取、夕食時の味噌汁・生野菜・くだものの摂取を制限し、就寝2時間前に入浴し、その後しばらく横になるように指導したら、夜間が2-3回になった。そこで、昼食後に少量のループ利尿薬を内服させたところ、夕方までの排尿回数は増えたが、夜間の排尿回数は1回になり、下肢の浮腫も消失した。
夜間頻尿の原因は膀胱容量の減少、夜間多尿、睡眠障害に分けられる。
排尿を我慢して300mL以上溜められれば膀胱容量は正常であるが、体重の4倍以下(体重50kgの人が200mL以下)しか溜められない場合は膀胱容量が減少している。膀胱容量の減少は、膀胱炎や前立腺炎などの感染症、脳梗塞やパーキンソン病などの脳神経疾患、前立腺肥大症、膀胱の老化現象などの過活動膀胱でみられる。脳神経疾患による過活動膀胱症状の改善に膀胱排尿筋の勝手な収縮を抑える薬(抗コリン薬や交感神経β3作動薬)を服用する。前立腺肥大症に対してはまず交感神経α1受容体遮断薬を投与し、効果が不十分であれば抗コリン薬や交感神経β3作動薬の追加を考慮する。
起床時の尿量も含めた夜間の尿量が1日総尿量の1/3以上(1日総尿量が1500mLの人で夜間尿量が500mL以上)の場合は夜間多尿(夜間の尿量が多い)である。夜間多尿は、糖尿病による水分の摂り過ぎ、老化に伴う抗利尿ホルモン分泌の低下、高血圧、うっ血性心不全、腎機能障害などの全身性疾患、睡眠時に呼吸が一時的に止まり、いびきをかく人によくみられる睡眠時無呼吸症候群などでみられる。まずは基礎疾患の治療が大切である。昼食後に少量の利尿薬を内服し、夕方までに体の中の不要な水分を出してしまうことや就寝の数時間前に入浴し横になることで下半身に溜まった水分就寝までに尿として出してしまうことが有効な場合もある。
睡眠障害(尿が溜まっていなくともよく眠れない、または夜に目が覚めてしまう)でも夜間頻尿となる。よく眠れるような環境の整備や生活リズムの改善を行っても睡眠障害がある場合は睡眠薬の内服も有効である。
就寝前や夜間に水分を多く摂り血液をサラサラにすることで脳梗塞や心筋梗塞予防できるという科学的根拠はないので、水分の摂り過ぎで頻尿になっている場合は水分を控える必要がある。