お電話でのご相談、予約受付

お電話でのご相談、予約受付TEL.03-6273-2209

予約なしの当日のご来院も可能です。ご来院前に空き状況確認のお電話をお願い致します。

ページTOP

慢性皮膚疾患 

82歳男性、皮脂欠乏性湿疹(千葉北総病院 皮膚科 幸野健)

概要

既往歴:脳梗塞、高血圧、緑内障
70歳頃より両下腿皮膚の乾燥が著しく、冬季に悪化し。5年前より体幹、上肢の乾燥も目立つようになって来た。市販薬を外用していたが改善せず、皮膚科受診し、保湿薬処方され時々軽快するが、すぐ再燃する。痒みが激しく夜間目が覚めることも多くなった。痒くて掻くと白い粉が舞い落ちるようになり、何度も入浴するようになった。それが恥ずかしくて大好きなスポーツジムや指圧に行くことも控えるようになった。何箇所かの皮膚科を受診するも寛解と再燃を繰り返している。脳梗塞後遺症で当院神経内科を受診した際、当院皮膚科に紹介された。

初診時現症

全身的に皮膚は菲薄化しており、乾燥顕著。特に両下腿前面皮膚は乾燥して紅斑落屑性局面を呈しており、一部細かい亀裂を伴っていた。腰背部には掻破痕を多数認めた。

主な検査所見など

〈血液検査〉
血液一般検査にて軽度貧血以外特に以上なし。肝腎機能正常。糖尿・高尿酸血症・高脂血症なし。甲状腺機能正常、IgE値正常。

診断と鑑別診断

診断:加齢に伴う皮脂欠乏性湿疹
鑑別診断
1) 乾皮症:加齢により皮脂分泌が低下するため、全ての人に乾燥傾向は出現する。ただし、本例のように紅斑(炎症の4徴候の発赤)や亀裂を伴い出すと、既に「皮膚炎」、即ち「湿疹」の状態に至っている。保湿薬のみでなく、抗炎症薬の追加が必要である。
2) 腎障害、甲状腺機能低下による皮膚乾燥:特に透析患者などでは皮膚乾燥はかなり見られる。本例では腎機能、甲状腺機能は正常であった。
3) アトピー性皮膚炎:本例では、アトピー性皮膚炎、花粉症、喘息などの既往なし。高齢発症のアトピー性皮膚炎はあり得るが、などがあった訳ではなかった(IgE値も正常)。

図1

図1.pdf

治療方針

加齢に伴う皮脂欠乏性湿疹であること、すでに乾皮症から皮膚炎に進展しており、通常の保湿薬のみならず、抗炎症作用のあるステロイド外用薬の追加が必要であることを説明し、ストロングクラスのステロイド外用薬と保湿作用のあるヘパリン類似物の合剤を処方した(1日1-2回、特に入浴直後)。また脳梗塞後で抗凝固薬を内服していたが、掻破による細かい皮膚の傷が治りにくく炎症が遷延化することを説明し、爪を切ることを指導し、止痒効果の内服薬常用を勧めたが、以前他院で処方された抗ヒスタミン薬で、転倒の既往があること、緑内障が悪化したこと等より、希望されなかった(鎮静性抗ヒスタミン薬では眠気や注意力を含む能力低下「インペアード・パフォ-マンス」がある。また一部は緑内障を悪化させる)。黄連解毒湯エキス剤を処方した。さらに、頻回の入浴や熱い風呂水は皮脂を流出させるので本症にはよくないことを説明した。

治療経過の総括と解説

【皮脂欠乏性湿疹の経過の総括と解説】
ステロイド外用薬とヘパリン類似物の合剤外用と漢方エキス剤内服により、2週間後には皮疹は著明に軽快し痒みの訴えもなくなった。外用は1日1回に減らし、炎症がない時には保湿剤のみにしているが、白い粉を吹いたような状態もなくなり満足している。
 乾燥皮膚は通常の皮膚に比較して、細かい亀裂が常に入っている状態であり、脆弱になるので、炎症は治まっても、保湿薬を続けることは重要なことである。
炎症にはステロイド外用薬が有用であるが、大量の使用は副腎抑制に繋がるので注意すべきことは言うまでもない。また、強いステロイド外用薬では炎症を治める力は強くても、皮脂生産も低下させるのでかえって乾燥することがある。さらに、ステロイド外用を長く続けると皮膚は薄くなるため、老人性紫斑が増加することがあるし、外傷にも弱くなるので注意する(特に抗凝固薬を内服している老人には要注意)。塗り心地は軟膏よりクリームの方がよいが、クリームではかえって乾燥することもあるし、保湿薬などと合剤にできないクリームも多い。ヘパリン類似物が保湿薬としてよく使用されるが、血液凝固能が低下することがあり注意する。
 通常の医学的介入のみならず、入浴や爪切りなどの生活習慣指導が極めて重要である。また、皮脂欠乏というと、血液に脂肪が足りないと思い込み、脂っこい食事に変更しようとする人が居るので注意する(血中脂脂質濃度と皮脂は関係がない)。さらに独居老人の場合、背部などは「まごの手」などを使用しない限り、十分外用できないので、来診時毎に外用してあげることを心がける。
 なお、老人性の皮膚搔痒症には当帰飲子以外に温清飲、黄連解毒湯、牛車腎気丸、八味地黄丸、六味丸などがすすめられる。特に、黄連解毒湯、牛車腎気丸、八味地黄丸には鎮静性抗ヒスタミン薬と同等もしくはそれを上回る止痒効果があったというエビデンスがある。さらに透析患者の皮膚搔痒症に対して黄連解毒湯、温清飲、当帰飲子が有効であったという報告もある(日本皮膚科学会皮膚搔痒症ガイドライン)。

参考文献