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慢性皮膚疾患

72歳男性、慢性痒疹 (千葉北総病院 皮膚科 幸野健)

概要

既往歴・合併症:糖尿病、高尿酸血症、高血圧
65歳ごろより四肢に痒みを伴う発疹が出現。複数の皮膚科専門医を受診し加療される。かなり強力なステロイドを外用しても軽度軽快する程度で、発疹は徐々に拡大し、四肢体幹に及ぶようになってきた。某大学病院皮膚科を受診したが、「湿疹の親玉だ」と言われ、ステロイド内服が処方された。内服にて一旦発疹は軽快するも、治療中止にて再燃する。夜は眠れぬくらい痒く、発疹がひどく見られたくないため、内科受診もおろそかにする傾向が出てきた。今回、かかりつけの内科医から当院皮膚科に紹介された。

初診時現症

四肢・体幹に直径数ミリから1cm程度の紅斑性結節が多発している。腰部は融合して大きな紅斑になっている。掻破により一部糜爛を伴う。
〈血液検査〉
血液一般検査にて好酸球増多あり(900個/μl)。HbA1c:9.0、尿酸:7.5mg/dl、肝腎機能軽度異常あり。IgE値正常。自己免疫性水疱症関連抗体(抗BP180抗体、抗デスモグレンイン1、3抗体):陰性、内科からの内服薬でのリンパ球刺激試験:陰性

主な検査所見など

胃カメラ、大腸ファイバー、全身CT、PET検査、腫瘍マーカー検査で異常なし。

診断と鑑別診断

診断:慢性痒疹(糖尿病、高尿酸血症、肝腎障害などのメタボリック症候群に合併した結節性痒疹)
鑑別診断
1) アトピー性皮膚炎:成人型のアトピー性皮膚炎ではしばしば丘疹より大きな結節を主体とする痒疹を呈することがある。本例では喘息、花粉症などの既往もなく、IgE正常値であり否定的であった。
2) 疥癬:孤立性の発疹、好酸球増多等から鑑別を要するが、本例では顕微鏡検査にて陰性。また臍周囲、陰部、指間などの疥癬の好発部位には発疹を認めなかったので否定的
3) 湿疹型薬疹:かなり長期間内服している薬剤でも湿疹型薬疹はあり得る。好酸球増多より一応否定しておく必要はある。内服薬のリンパ球刺激試験では陰性であったが、この検査は陽性の時のみ意義がある。かかりつけ医に相談して種々内服薬を変更してもらったが、特に発疹に変わりはなく、本例は否定的と考えた。
4) 自己免疫性水疱症に関連する痒疹様皮疹:類天疱瘡や天疱瘡などで、明確な水疱を形成せず、充実性の結節に見えることがある。本例では自己抗体陰性により否定的。
5) 悪性腫瘍に合併する慢性痒疹:しばしば経験するが、本例では否定された。リンパ腫でも痒疹は出現しえるので、経過により皮膚生検が必要となる。

図2

図2.pdf

治療方針

メタボリック症候群を有する主に高年齢男性にしばしば見られる症状で非常に治り難いことを説明。かなり強力なステロイド外用薬と止痒目的で抗ヒスタミン薬内服が必要だが、時にそれだけでは軽快せずステロイド内服が必要になることを説明の上、内科受診と服薬遵守を厳密にすることを約束してもらった。また温清飲エキス剤内服を追加した。糖尿病等の軽快と共に、時に悪化時にはプレドニゾロン5-10mg/日数日内服くらいで症状は落ち着くようになった。

治療経過の総括と解説

本症は一般に難治であり、患者はドクターショッピングする傾向が高い。ステロイド内服やシクロスポリン内服(保険適応外)に内臓疾患を増悪させることは言うまでもない。全身的健康と皮疹軽快とを常に天秤にかけて治療していくしかない。また、本例でも検索したが、内臓悪性腫瘍の合併があり得るので注意する。
ステロイドなどの免疫抑制薬の全身投与がはばかられる例では、漢方薬内服、紫外線治療などが有効なことがあるので考慮する(ただし保険適応外)
日本皮膚科学会の慢性痒疹診療ガイドラインでは、以下の漢方薬の使用を掲載している(エビデンスは十分ではないが使用してもよい):温清飲、黄連解毒湯、四物湯、越ピ加えじゅつ湯、柴れい湯、大柴胡湯加減、補中益気湯

参考文献