既往歴・合併症:心筋梗塞、肺気腫
70歳ごろより四肢体幹に痒みを伴う発疹が出現。徐々に融合し、全身性に紅斑を呈するようになった。複数の総合病院を受診し、ステロイド外用治療を受けるも軽快しなかった。某大学病院皮膚科を受診し皮膚生検をされたが、「リンパ腫や乾癬は否定的」と言われた。その後も軽快しないため、当院皮膚科を受診した。
全身性に紅斑落屑が著しい。皮膚は薄く、掻破痕多数。頚部・鼠径部のリンパ節腫脹を認める。
〈血液検査〉
血液一般検査にて、貧血(RBC:280万)、好酸球増多あり(1500個/μl)。肝腎機能軽度異常あり。IgE:1400IU/mlと上昇あるも代表的な吸入抗原に対するIgE-RASTでは全て陰性。内科からの内服薬でのリンパ球刺激試験:陰性
〈その他の検査〉
胃カメラ、大腸ファイバー、全身CT、PET検査、腫瘍マーカー検査で異常なし。
診断:紅皮症
鑑別診断
1) セザリー症候群:血液検査で貧血と好酸球増多以外には特に異常なく、以前の皮膚生検でもリンパ腫瘍は否定的。
2) 薬疹:好酸球増多より考慮されるが、リンパ球刺激試験陰性と内科からの処方変更にても発疹の変化なし。
IgE高値より高年型アトピー性皮膚炎を含む湿疹続発性紅皮症を考え、最強力なステロイド外用薬とプレドニゾロン10mg/日投与。皮疹は徐々に改善し、2週後にはプレドニゾロン5mg/日に減量した。その後、皮膚乾燥は強く、時々紅斑の再燃を見たため、温清飲と消風散エキス剤を追加。2ヶ月で大略発疹は軽快し、中等度のステロイド外用薬と保湿剤、さらに上記漢方薬のみで経過をみていた。1年後、血液内科にて骨髄異形成症候群と診断され、現在加療中。皮膚は上記処方のみで、完治はしないまでも現在は安定している。
【紅皮症の経過の総括と解説】
本症は高齢者特に男性に多く、一般に難治である。湿疹続発性のもの、悪性腫瘍に合併するものなどがあるが、原因不明のものもある。原因不明とされるものも、経過を見て行くと、本例のように悪性腫瘍が発症するものが多いようである。私見ではIgE値上昇あるも代表的な特異抗原に対するIgE-RASTで全て陰性という結果を呈する場合、要注意である。
治療としては、一般にステロイド外用と特に症状が強い時にステロイド少量内服が有効であることが多い。
漢方薬は前記、皮膚搔痒症や慢性痒疹に使用されたものを基盤にして使用されることが多い。