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アレルギー膠原病内科

79歳女性、偽痛風     門田寛子、仁科直、桑名正隆

概要

3日前から右膝が痛み、熱感をもって腫れあがり、38℃台の発熱も出現。日課の散歩もできなくなった。TVの番組で関節リウマチの特集をしていたことを思い出し、近医を受診した。他の関節に自発痛や運動時痛もなく、血液などの検査から関節リウマチは否定された。一方で炎症が強いという説明がなされ、抗生剤を処方された。しかし、痛みはさらに増強し、夜も寝返りをうつのが辛くなった。普段は独居のため、近くに住む家族につきそわれて、当院救急外来を受診した。

初診時現症

〈一般身体所見〉
体温38.2℃。咽頭発赤やリンパ節腫脹なく、胸腹部にも異常所見なし。
右膝関節は腫脹し、発赤と熱感を伴っていた。他の関節の腫脹、圧痛なし。

主な検査所見など

〈血液検査〉
血沈亢進、白血球上昇、CRP高値。リウマトイド因子陰性、抗CCP抗体陰性。
尿酸基準値内で、他の生化学的検査も異常なし。
〈関節穿刺検査〉
関節液は肉眼的に混濁し、多核球優位の白血球増多を認める。細菌培養陰性。偏光顕微鏡にてピロリン酸カルシウム結晶が観察された。
〈画像検査〉
単純X線:関節三角線維軟骨複合体、右膝関節の内外側半月板、恥骨結合に石灰沈着。
超音波検査:右膝蓋大腿関節の無エコー域である硝子軟骨内部に、高輝度の結晶沈着。

診断と鑑別診断

関節内の石灰化像、超音波での軟骨への結晶沈着所見は偽痛風に特徴的で、関節穿刺液にピロリン酸カルシウムの結晶を認めることから、臨床経過と合わせ、偽痛風と診断した。
急性発症の単関節炎の代表的なものには、痛風、偽痛風、化膿性関節炎がある。最も緊急に対応すべきは化膿性関節炎であるが、本例では前医で処方された抗菌薬の効果乏しく、関節液培養結果は陰性であり、考えにくい。また、本人が一番心配していた関節リウマチは通常、手指関節を中心とした多関節炎で発症することが多く、疾患の特徴的なリウマトイド因子や抗CCP抗体がであったことから、否定的である。

治療方針

右膝関節穿刺により関節液を排液し、ステロイド関節内注入を行った。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方の上、自宅安静とした。

治療経過の総括と解説

【偽痛風の特徴的な症状と検査所見】
痛風は尿酸が関節局所で結晶を形成することにより誘発される発作性の関節炎で、拇趾の付け根、第一中足指節関節に好発する。これに対し、偽痛風は痛風と同じように急性関節炎を引き起こすが、その原因は関節内へのピロリン酸カルシウム沈着であり、膝、手、肩、股関節などの大関節に好発し、60歳以上の高齢者に多い。
血液検査では炎症反応を確認するだけでなく、関節リウマチなどの他疾患を否定することが重要であり、関節X線では、関節軟骨に線状・点状の石灰化沈着が見られる。特に、膝関節、手首の三角線維軟骨複合体、恥骨結合線維軟骨に好発する。関節液内にピロリン酸カルシウムの結晶を証明することが確定診断につながる。
【標準的な治療】
この二つの疾患は結晶誘発性関節炎と呼ばれ、結晶の生成を抑えることがその予防となる。痛風ではその原因である高尿酸血症をコントロールすることが発作予防につながるのに対し、偽痛風では結晶を除去する根治的な治療法は確立されていない。
偽痛風の急性関節炎に対しては、関節液の穿刺、排液、およびステロイド薬の関節内投与、NSAIDsの経口投与で対応する。激しい関節局所の炎症や疼痛、多関節発作や発熱などの全身症状が出現した場合はステロイドの全身投与も選択される。発作反復例では少量の非ステロイド性抗炎症薬やコルヒチンの予防内服が行われることがある。関節破壊が進行した例では、理学療法、ヒアルロン酸注入、外科的治療などが適用される。
【診療における高齢者特有の対処】
高齢者では関節局所の症状に加え高熱や消耗など全身症状が顕著で、本人の訴えの主体が関節外症状である場合には診断に苦慮することもある。また、発作反復例や長期に複数関節に及ぶ場合は、変形性関節症(合併することが多い)、血清陰性の関節リウマチとして治療されていることもある。高齢者でこれらに対する治療を行い、改善が乏しい場合は偽痛風を念頭に置く必要がある。
【治療経過】
症状・検査所見とも炎症が強かったため、関節液の排液とステロイドの関節注射後に疼痛は軽減。NSAIDs内服でさらに症状は改善し、再発は認められなかった。

参考文献