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アレルギー膠原病内科 

73歳女性、巨細胞性動脈炎     福栄亮介、鏑木誠、桑名正隆

概要

生来健康。数日前から左側の頭痛が出現した。痛み止めの内服で自制内であり様子をみていたが、改善なく脳卒中を心配し近医神経内科を受診した。神経学的異常所見はなく、頭部CT、MRIでも明らかな異常所見を認めないため、偏頭痛を疑い内服薬が処方された。しかし、頭痛は改善せず、倦怠感、37.5度の発熱が出現したため、当院総合診療科を受診した。左側頭動脈は索状に肥厚し、圧痛、拍動減弱を認め、詳細な問診により食事中に顎が疲労する下顎跛行の症状がみられた。また、赤沈90mm/hrと亢進しており巨細胞性動脈炎(GCA)が疑われ、精査加療目的で入院となった。   

初診時現症

微熱あり。左側頭動脈の索状肥厚、圧痛、拍動減弱あり。頚部両側血管雑音なし。両上肢挙上可能。胸腹部に異常所見なし。関節炎なし。皮疹なし、神経学的異常所見なし。

主な検査所見など

<血液検査>
白血球上昇、赤沈亢進、CRP 高値上昇
抗核抗体 陰性、リウマトイド因子(RF) 陰性、抗CCP抗体 陰性、抗好中球細胞質抗体(ANCA) 陰性
<眼底検査>
明らかな異常なし
<画像検査>
側頭動脈エコー:全周性の血管壁肥厚を認める
胸腹部3D-CT:大動脈とその枝に明らかな狭窄、拡張所見は認めない

診断と鑑別診断

巨細胞性動脈炎(Giant Cell Arteritis; GCA)では炎症性病態により赤沈が亢進し、側頭動脈などに硬結、腫脹がみられる。障害された血管の血行障害により頭痛や顎跛行の症状が出現する。確定診断は側頭動脈生検が有用であるが、頭部血管のみならず、鎖骨下動脈、腋窩動脈にも病変が及ぶ事があり注意が必要である。鑑別診断で重要なものに脳血管障害があるが、脳神経所見がほぼ必発であり、頭部画像検索にて異常が指摘される。また、複数の動脈硬化リスクを有している事が多く鑑別は比較的容易である。他の鑑別としては、高安動脈炎や中〜小型血管炎があるが、発症年齢や障害臓器の部位、ANCAなどの自己抗体などにより鑑別可能と考えられる。発熱、頭痛を主訴とするため、髄膜炎などの中枢神経系感染症と間違えられやすく、感染症が否定されたあとも診断に苦慮する場合がある。

治療方針

GCAの急性期治療の中心的薬剤はステロイドである。特に、眼症状、中枢神経症状のある場合はステロイド大量療法とし、これらがない場合は中等量とする。

治療経過の総括と解説

【GCAの特徴的な症状と検査所見】
50歳以上に新規発症した頭痛では、GCAは忘れてはならない鑑別疾患の一つである。典型的には側頭動脈、眼動脈に病変がみられ発熱などの全身症状や頭痛、下顎跛行がみられる。視力、視野障害が出現する事があり、最悪の場合は失明に至る。眼底検査を施行し虚血性変化を示唆する視神経乳頭の浮腫、綿花様白斑などが無いか確認が必要である。画像診断機器の向上により、大動脈、鎖骨下動脈にも炎症が及び、動脈瘤や血管狭窄がみられる事が知られるようになった。従って、頭頚部や胸部大動脈の第2〜4分枝の病変も検索する必要がある。
診断には側頭動脈生検が有用であり、多核巨細胞による内弾性板の破壊像を確認する。また、30〜50%にリウマチ性多発筋痛症を合併し、GCA診断の契機となりうる。
【標準的な治療】
治療の基本は中等量のステロイドである。ステロイド漸減困難な場合はメトトレキサートなどの免疫抑制剤の併用が推奨される。
【診療における高齢者特有の対処】
高齢者におけるGCA治療の注意点治療薬はステロイドであるが、比較的大量に投与するため感染症の発生に留意する。再発は多くないため、速やかにステロイドを漸減し副作用のリスクを減らす必要がある。
【治療経過】
この方の場合、眼症状、中枢神経症状はなく、プレドニン0.5mg/kg/dayより開始した。発熱、炎症反応は速やかに改善し、頭痛などの症状も改善傾向である。ステロイド漸減中も症状の再燃なく経過良好である。

参考文献