主訴は臀部痛。2年前、上行結腸癌にて右半結腸切除術、その後S-1、FOLFOX4、Bevacizumab-FOLFIRIなどの抗癌化学療法の治療計画を行うが、局所再発による直腸狭窄症状が増強し人工肛門作成術を行った。その後、半年前、仙骨転移による肛門痛と右下肢痛が増強し、当科受診。放射線治療(計53Gy)開始、オキシコドンの増量後は、眠気避けるため、硬膜外皮下ポートを作成した。硬膜外ポート挿入術(L2/3)後は硬膜外モルヒネを適宜、増量することにより疼痛コントロールが可能になり、当科紹介後、経過日数119日後に急性腎不全にて永眠したが、前日までコミュニケーション可能であった(硬膜外ポート挿入日数62日間)。
上行結腸癌(stage Ⅲ 右半結腸切除)、局所再発し人工肛門造設術後、TS-1開始し継続中。
口内炎(口腔内に多発する潰瘍)を認め、疼痛強い。
CTにて腹膜(膀胱直腸窩), 仙骨, 右腸骨, 肝, 肺, 坐骨、大動脈周囲リンパ節に転移あり。
ADLはthe Katz scale 0 (全自立) 、認知機能は正常。
肛門痛の疼痛はオピオイド、NSAIDSに加え、鎮痛補助薬追加したが不良(NRS 10/10)。
【本人の意思】
仕事したいので、眠くなるのは困る。化学療法などの辛い治療をしたくない。
【疼痛所見】
① 右鼠径部:大腸癌右鼠径部転移部に一致する鋭い痛み(NRS 8~9/10)
温浴にて緩和され、オキシコドン40mg/2xに増量すると、NRS 1~2/10と痛みの改善が見られた。
② 臀部痛:仙骨部、右側優位に突然生じる鈍痛(NRS 10/10)
臥位安静にて改善、体動にて悪化する。痛み始めると何もできずうずくまる。座位は不能。
デルマトームS領域にアロディニアを認める。オキシコドン40mg/2x増量後も改善しない。
【本症の臀部痛の診断】
本症の殿部痛はアロディニアallodynia(風などの軽い刺激などの痛みを起こさない刺激で痛みが惹き起こされる状態)が出現し、オピオイドの増量でも痛みの軽減が見られないので、神経障害性疼痛と考えられる。
【神経障害性疼痛の特徴】
がんの身体的痛みは①侵害受容性疼痛(体性痛)② 神経障害性疼痛③内臓痛の3種類に分類され、これらが単独または複雑に絡み合っている。がんの痛みで、オピオイドが無効な痛みの原因のほとんどがこの神経障害性疼痛である。
非がんの神経障害性疼痛は事故や手術、帯状疱疹などにより求心性一次知覚ニューロンが何らかの原因で傷害を受けた場合に発症し、痛みの直接の原因がなくなった後も激痛が続き、「ぴりぴりした痛み」などと表現されることが多い。抗癌剤の副作用でも神経障害性疼痛がみられ、CIPN (Chemotherapy-induced Peripheral Neuropathy : CIPN化学療法による末梢神経障害)と呼ばれる。
【診断】上行結腸癌
【血液検査】軽度貧血、軽度腎機能障害、軽度出血傾向。
【脊椎MRI(Magnetic Resonance Imaging;磁気共鳴画像)検査】
局所再発の仙骨前面の浸潤。
【骨転移痛の放射線療法】
骨転移に対する放射線療法による骨転移痛の部分寛解率は8割と高く、このため放射線療法の局所治療効果により,鎮痛薬の量を減らすことが可能である。照射はできるだけ早く開始することが大切で、特に脊柱の転移病巣が脊椎管内に進展すると、急速に神経麻痺が進行するため、麻痺の徴候が認められたら24時間以内に開始する。
塩化ストロンチウム(89Sr)は骨転移、特に多発性骨転移に伴う疼痛において、薬物療法や外部放射線照射などでもコントロール不能の場合に用いられる。本剤は静脈内注射により造骨活性の高い骨転移部位に多く集積し、β線照射により鎮痛効果を現す。効果は1~3週間で現れ、数ヶ月持続する。主な副作用は骨髄抑制であり、化学療法や外部放射線照射との併用には注意が必要である。
井上大輔,木下勉,柵山年和,谷藤泰正:硬膜外皮下ポートシステムの有用性.癌と化学療法 36:122-124, 2009