突然の左下腹部痛、悪心が出現し、様子を見ていたが改善しないため、救急車にて当院に搬送となった。
<既往歴>
82歳時に急性虫垂炎、子宮留膿腫に対して虫垂切除術、子宮全摘術、左右付属器切除術施行され,86歳時に癒着性腸閉塞に対しイレウス解除術施行されている.その他は治療中の疾患は認めなかった.
<一般身体所見>
腹部視診上、下腹部正中に手術痕を認め、腹部は全体に膨満していた。左側腹部に圧痛を認めたが、筋性防御は認めなかった。
<血液検査>
血液検査上、Hb 12.2g/dl、Ht 36.8%、白血球数9200/μl、生化学的検査ではBUN 20.7㎎/dl、Cre 0.72と軽度の脱水を認めた。
<腹部造影CT検査(初診時)>
小腸は全体に拡張し,壁肥厚も認めた。骨盤内で腸管径の変化が見られ、同部位での癒着による閉塞が疑われた。
上記より癒着性腸閉塞と診断した。
<入院後経過>
入院日にイレウス管を挿入し、まずは保存的に加療する方針とした。しかし、翌日,腹部の膨満、圧痛が増悪したため、腹部造影CTを再度撮影したところ、腸管の拡張が増悪していた。明らかな腸管壁の造影効果の低下は認めなかったものの絞扼性腸閉塞を完全に否定できなかったため緊急手術の方針となった。
<手術>
骨盤内に索状物を認め、それによって小腸が約70㎝絞扼されていた。絞扼腸管を切除し、癒着剥離を可及的に行って手術を終了した。
せん妄は身体的状態に伴う軽度から中等度の意識障害が主症状であり、幻覚、妄想、興奮などの精神症状を伴うことがある。急性、亜急性に発症し日内変動を認め、薬物や身体疾患がその原因とされる。
危険因子としては高齢、認知症、うつ状態、視聴覚障害、感染症、疼痛などが報告されている。本症例における術後せん妄は、全身状態の悪化が主要因であると考えられた。メンタルヘルス科に介入してもらうことでせん妄は速やかに改善した。
高齢者においては本症例のような緊急手術がせん妄の引き金になりやすいと考えるが、予定手術においても術後せん妄をしばしば経験する。せん妄の治療と共に手術の合併症(表1)が起きていないかなどの確認がポイントとなる。