92歳頃より時々不正性器出血を自覚していた。93歳時に近医産婦人科を受診して子宮頸部細胞診を施行するも異常はみられなかった。94歳時に再度不正性器出血がみられ近医を再診、子宮内膜細胞診を施行したところclassV(endometrioid adeno ca.)との結果、さらに骨盤MRIにて粘膜下子宮筋腫および子宮体癌の疑いを指摘され当院産婦人科を受診した。
〈一般身体所見〉
身長:144.0cm、体重:44.8㎏。4回経妊4回経産。
中肉中背でバイタルに著変なし。胸腹部に理学的異常所見なし。
神経学的には、四肢の麻痺を認めず、明らかな感覚障害も認めない。難聴あり。
内診所見にて腟分泌物は淡血性、漿液性、少量。子宮は前傾前屈、大きさはほぼ正常大、両側付属器は触知しなかった。
〈血液検査〉
血液血算所見は異常なし。生化学所見では、アルブミンが3.7 g/dlと低値であったが、それ以外は正常範囲であった。腫瘍マーカーでは、CA125が45.0 U/ml、CA19-9が91.0 U/mlとそれぞれ高値であったが、CEAは正常範囲であった。血液凝固検査では、D-dimerが0.8 ug/mlと軽度上昇していたが、それ以外はすべて正常範囲であった。
〈画像検査〉
経腟超音波所見:子宮には5㎝大の粘膜下筋腫あり、子宮内腔は子宮留水症のように水分が貯留しており、一部に2cm大の隆起性病変がみられた。両側付属器は異常なく、ダグラス窩にも所見はみられなかった。
骨盤MRI(Magnetic Resonance Imaging;磁気共鳴画像)所見:子宮体部は拡張し、長径8cm程の一部乳頭状の腫瘤、液体貯留がみられる。子宮筋腫と子宮体癌の混在が疑われ、子宮体癌は子宮筋層浸潤を伴っていると思われるが、筋層が薄いため深さの評価は困難である。
骨盤CT所見:子宮は不整に腫大し、内部に不整な8x6.5㎝程度の腫瘤がある。内部は不均一であり、壊死を伴っている。周囲への浸潤性変化はない。わずかな腹水をみとめる。
〈病理検査〉
子宮内膜組織診:類内膜腺癌
子宮体癌(類内膜腺癌)の術前診断にて手術の予定となった。
高齢であることを考慮し、できるだけ低侵襲な手術として腹腔鏡下手術を選択した。当院入院後、腹腔鏡下子宮全摘術、両側付属器摘出術を施行した。術後の摘出物による病理結果では、子宮体癌組織は子宮筋層の1/2以上に浸潤しており、子宮頸部、両側付属器への浸潤、転移はみられなかった。最終診断は子宮体癌IB期(類内膜腺癌G2)であった。術後の追加化学療法を検討したが、高齢であり副作用への不安が強いことから、追加治療は行わず外来にて経過観察することとした。
【子宮体癌の治療経過の総括と解説】
子宮体癌は閉経後の女性に好発する疾患である。一般的には未産婦、肥満、高血圧症、高脂血症などがリスク因子としてあげられ、主訴は不正性器出血が最も多いといわれている。内膜組織診により病理学的に診断し、MRI、CT、超音波断層法などの画像検査にて術前の進行期を決定する。
治療は、手術が可能な進行期であればまず手術を施行し、術後の病理結果により追加治療を行うかどうかを検討する。追加治療としては化学療法が一般的であり、白金製剤を中心とした多剤併用療法を施行することが多い。